【ガストロバー・ムナカタ2019/後編】生死の危険もある漁場、沖ノ島。 チャレンジしてきた先にある、いま。

【ガストロバー・ムナカタ2019/後編】生死の危険もある漁場、沖ノ島。 チャレンジしてきた先にある、いま。

前編では、宗像大島の世界遺産となった中津宮、沖津宮遥拝所をゲストスピーカーの神職の壹岐氏、奉賛会会長の沖西氏からお話受けながら周り、灯台、沖ノ島を臨む会場「MINAWA」へ移動。

アミューズ・グールとコース料理1品目までをご紹介しました。ゲストスピーカーお二人を囲みながら初めて会ったゲスト同士、物語のある料理を前に会話が弾み、場に自然と一体感が生まれていきました。


食材の特徴を見極め、フランス伝統技法の
アレンジメントから生まれる新たな価値。

続いてはオレンジの彩りが鮮やかな「野菜のムースとむなかた牛のコンソメジュレ」。

ムースのオレンジはなんと人参の自然な色味。スエと呼ばれるフランス料理の調理法で、直訳すると「汗をかかせる」。宗像産の人参に汗(水分)をかかせ(出させ)ながら、弱火でゆっくりと炒めます。芯部分ではなく、香りが立ち、甘みを多く含んでいる周りのオレンジ色部分を使用。ロースト後にスムージー用のミキサーにかけたピューレと生クリームを3:1で混ぜ合わせます。

80年代に流行った野菜のムースのお菓子の技法を今回の料理にアレンジメント。そしてむなかた牛から取ったコンソメとウニを乗せて完成。

むなかた牛のコンソメのコクと、大島のウニの塩気、そして人参ムースの甘みとふわっとした食感の、畜産、魚介、野菜それぞれの旨味を活かした三位一体の一品です。

コース料理3品目は、友栄丸 上野氏が獲ったサザエを使った「活けサザエのブルターニュ風 大島の海藻バター焼き」。ブルターニュでは海藻バターが有名で、食卓では魚の上に海藻バターが乗っていることが多いのだそう。今回は大島の海藻でつくった海藻バターを使用。

4品目は「野菜とお魚の蒸し オランデーズのグラティネ」。

春日丸が獲った真鯛を蒸してオランデーズソースをかけて、グラタン風(グラティネ)に。今回使用したオランデーズソースは作り置きが出来ないもので、作ってから1時間で食べないと味が劣化してしまうとのこと。

卵にしっかり火入れをしつつ、まずは卵臭さを抜きます。卵が固まらないように澄ましバターと混ぜつつ湯煎し、バターを分離。オリーブオイル、ぶどうのレザンオイルなどを入れて、さらにクリームを立ててソースを軽めにすることでお魚に合うように現代風にアレンジメント。コクのあるオランデーズソースの完成。

真鯛の鮮度をソースの鮮度と掛け合わせることで一層楽しんでもらう一品。

今回の会場であるMINAWAは宿泊施設なので、厨房設備がお店のように充分ではありません。この場所で出来るシェフの知識と経験の100%すべてを投じた最高の料理を、という思いから今回のコース料理は構成されていて、14食分を作るという時間のない中でも鮮度を求めたシェフのこだわりを感じます。

今回、調理場とホールが近い関係もあり、その臨場感がゲストの食事をより一層楽しませてくれています。

5品目「大島産アワビ 温かいフラン」。

寛政2年(1790年)創業の地元酒蔵、勝屋酒造にて、世界遺産の名を冠する日本酒「沖ノ島」を使用して、まずアワビをマリネ。その後、真空で60℃、3時間の湯煎。裏ごしした肝は別に取っておき、アワビに一通り火が入ったら香ばしさを出すため表面をカリッと焼きます。アワビは急激に火を入れると固くなるので、最初に蒸した後に、火を入れて茶碗蒸しのような仕立てに。

続いて、6品目「大島のお魚のポワレ 大島米のリゾット添え」。

フライパンで表面をカリッと、中身はふんわりした食感に焼き上げる手法をポワレと呼びます。この日は春日丸で獲れたいさきをポワレしました。いさきに添えたリゾットは大島にて自然栽培でお米をつくる寺島さんよりいただいたお米で炊いたリゾット。このリゾットはフュメ・ド・ポワソンと呼ばれる魚の出汁で炊きました。最初はおすましのような透明な出汁で固めに炊きます。

その後、仕上げに南フランス定番と呼ばれるスープ・ド・ポワソンと、こちらも南フランスで用いられる辛味のあるルイユと呼ばれるソースを入れて再度炊きこみます。

そう、こちらのリゾットはなんと2つの出汁で炊き込んでいるのです。

多様な伝統技法と食材の相性を見極め、アレンジメントして相乗効果を生み出す。まさにこれまでの地元の伝統・歴史・文化に敬意を払いつつ、新たな挑戦をする。

まさに守破離のような、ガストロバー・ムナカタのコンセプトそのものをシェフ舩越氏は体現してくれました。


コース料理最後の一皿。
地元の名を冠する肉牛、むなかた牛。

最後のコース料理の前にここで、ワインの紹介を。

シェフ舩越氏は料理人であるとともに、ソムリエの資格も持たれています。「食事中の飲み物によって、料理の味が良くも悪くも左右されてしまうことがある。お酒で食事が台無しになっては元も子もない、と。」今回は最高のおもてなしをしたい、という想いもあり、特別にコース料理に合うワインも合わせてリストアップしていただきました。

もちろん温度調整も徹底。特に古いワインはちょっとした保存環境の違いで味が変化してしまいますし、飲む瞬間のワインのベストな温度もあります。シャンパーニュ、仏ビール、日本酒の後に、あえて一度、赤ワインを出すなど、料理とのペアリングにもこだわりを持ってセレクトしていただきました。

まずは「サン・ニコラ・ド・ブルグイユ VV 1986 ジョエル タリュ(仏ロワール地方)」。こちらは酸が強い赤ワイン。40~50年の古樹から作られていて、名称にある「VV」はフランス語で「樹齢の高いブドウ樹」を意味するヴィエイユ・ヴィーニュ(Vieille Vigne)。赤ワインながら魚にもよく合うとのことで、今回使用しました。

続いて、白ワインは「サン・トーバン 1er レ・フリオンヌ 1983 パトリック・クレルジェ(仏ブルゴーニュ地方1級畑)」。ブルゴーニュ地方のサントーバン村のフリオンヌという畑で作られたぶどうを使用。プルミエ・クリュと呼ばれる「一級(1er)」ワイン。色は白というよりも黄金で、熟成感のある白ワインはなかなかないそう。

そしてもう1本の赤ワインは「シャトー・カルボニュー・ルージュ 1990(ボルドークラーヴ特別級)」クラーヴ地方の格付けワインで、1990年ものはグレートヴィンテージと呼ばれる当たり年とのこと。新しいワインは渋く、熟成させる期間は長くかかりますが、角が取れてくると美味しくなっていきます。今回、シェフが最後のコース料理でマデラソースと合わせたかったワインです。

そしてコース料理最後の一品。「ラベンダー香るむなかた牛サーロインの炭火焼きロースト クラッシクなマデラソース」。

コンソメジュレでもその名が出てきた、むなかた牛。こちらは宗像市内に3,000頭の牛を飼育する福岡県内最大規模の牧場を構えるすすき牧場。国際認証規格「SQF」も取得し、飼料も自社で栽培するなど安心安全、そして美味しい肉牛を育てています。むなかた牛は脂身の少ない赤身肉で、近年低音でじわりと焼いてくローストビーフとして人気です。

今回は、ラベンダーを巻いて低温でローストしていきました。分厚い肉なので肉を休ませ、ロティール(ロースト)して、を繰り返し、ロゼ色になるまでまず焼きます。最後は表面を炭火でクリスピー状にカリッと焼いて仕上げます。

ソースもすべて1から作っています。フォン・ド・ボーとドミグラスを用いて、マデラ酒、ブランデー、赤ワインを煮詰めていきます。

フォン・ド・ボーは、子牛の骨と、牛テール、牛すじを入れて10時間煮込んで、濾したもの。ドミグラスは1年かけて作っており、まず牛すじ、林檎の皮、人参の皮、玉ねぎ、セロリを焼いて煮て濾してを繰り返します。

そこにルーを入れ、10時間かけてルーを焦がすことで粉っぽさを取り除いていきます。それら1から作ったフォン・ド・ボーとドミグラスをブレンドしたソースを使用。


デザートには、大島甘夏と大島の塩を。
そして、不利な条件に身を投じる新しいチャレンジ。

ゲストのみなさんも大満足のコース料理のあとは、その余韻をさらに楽しむデザートを。FRANCEYAではデザートも自社製造しています。

そのデザートの一つは「漁師をイメージしたプチタルト」。こちらは大島の甘夏を使用。タルトは漁師(船)を、チョコは海をイメージしました。

もう一品は「大島甘夏と大島塩キャラメルのミルフィーユ仕立て」。大島甘夏は日本海の潮風と太陽を一身に浴びたおかげか、香りが良く、近年では多くの商品に使用されています。また、大島の塩は大島や沖ノ島近郊の海水を使用して、大島在住の塩爺こと河辺健治氏が薪を燃やし、釜で海水をたぎらせて作る、という原始的な手法で作られています。

味は市販の精製塩とは比べ物にならないほど旨みとコクがあります。ミネラルや自然の味を感じるこの塩は大島甘夏同様、こちらもとても人気でお菓子などによく使われています。甘夏の酸味、キャラメルの甘み、そして塩みを加えた三位一体の塩キャラメルが生まれました。

すべてのサービスを終えたシェフの安堵の笑顔

宗像の食材をふんだんに使用したコース料理には、シェフの持つ知識、経験、技術を惜しみなく出していただきました。主催者として、フランス料理を設備も揃っていない場所で提供することの難しさを、想定はしていましたが、当日までの準備でより一層その困難さを理解しました。

まず、フランス料理では約12種類の料理でそれぞれお皿が変わっていきます。それをゲストとスピーカー計14名の方々の各お皿を用意すること。また合わせてグラスもお酒各6種ごとに用意。その他にカトラリー、椅子、クロスなど。数回に分けて事前にフェリーで荷物を搬入。当日は食材と調理道具も

。調理場の火力や勝手もお店のものとは全く異なる環境など、シェフとしては不利な条件が多く、下手をするとお店の名前に傷をつける可能性があるこの企画。しかし、シェフ舩越氏に相談した時、「こういう企画を待っていた」と言われました。

チャレンジすることをやめない。

FRANCEYAが多くのファンを持つ理由を感じました。

また、この企画を相談した漁師さん、農家さんも今までにない企画に楽しんで協力いただきました。

このレポートを読んでいただいたみなさんもお気づきかと思いますが、宗像は海があり、山があり、平野があり、食材がとても豊かな恵まれた土地なのです。肥沃な土地から育てたこだわりの野菜や果物、日本海の荒波に揉まれた活きの良い魚介類、飼育への飽くなきこだわりが詰まったお肉。

それらすべてが近郊で手に入る土地は日本でもなかなかないのではないでしょうか?また、そこに携わる人達の想いもシェフに今回の料理に込めていただきました。

オール宗像、そして大島で。
出来る可能性を追求して、そして次のステージへ。

今回はFRANCEYAのスタッフだけでなく、地元大島を盛り上げる活動をしている「しまカフェ」のママさん、大島の商品開発などを行っている地域おこし協力隊、故郷が宗像で地方活性の企画などで九州を飛び回りつつ今回の企画に賛同してくれたメンバーが当日サポートスタッフに。

また、宗像の良さを全国に広めたいという宗像愛あふれる皆さまが集客やご紹介などをサポートしてくれました。そしてイベントの途中にはお米などを提供いただいた寺島ご夫妻がゲストの皆さんに挨拶したいと、表敬訪問に来ていただくなど、地元愛を持つ多くの方々の力をお借りしてこの企画は実現できました。

2020年度もパワーアップした形で実行する予定でありましたが、新型コロナウイルスの影響で現在今後の動きは止まっている状態です。また皆さまに次の展開をご報告できる準備が整いましたら、ご案内させていただきます。このレポートを読んでいただいたまだ宗像へ行ったことがない皆さまはぜひ宗像、大島へ遊びに来てみてください。行ったことはあるけれど、新たな発見をこのレポートで感じてくれた方々は、また再度新たな宗像を感じに訪れてください。

これからもガストロバー・ムナカタの動きに注目していただけたら幸いです。