【ガストロバー・ムナカタ2019/前編】宗像の離島、「神守る島 大島」。 自然の厳しさ、豊かさ、神と共に生きる人々。

【ガストロバー・ムナカタ2019/前編】宗像の離島、「神守る島 大島」。 自然の厳しさ、豊かさ、神と共に生きる人々。

ガストロバー・ムナカタ2019は、地元の食を通じて宗像の文化・歴史を堪能していただく、少人数限定の一夜限りに行われるプレミアムダイニング。

今回の舞台は宗像市の離島、世界遺産「神宿る島 沖ノ島」を守る「神守る島 大島」にて開催しました。宗像大島の世界遺産を巡り、大島に暮らす漁師さん、農家さんたちから提供いただいた食材をふんだんに使用したフランス料理を通して、この日限りの、この場所だけの、プレミアムなひとときをゲストの皆さんとともに作り上げました。

前編・後編の2部に分けてレポートをご紹介していきます。


台風翌日、海は驚くほどの凪。
三女神の導きを感じ、一路宗像大島へ。

「波が5m以上あると船は出れくなるけんね。」

前日から台風5号が接近していることにスタッフ一同、開催できるのか緊張。海上タクシーの運転手はそう語りました。台風の心配ももちろんありましたが、台風が逸れたとしても、強風の影響で時化になる心配もありました。

運転手曰く「これまでの経験上、この気候の流れだとおそらく大丈夫やと思うよ」と。そしてまさにその言葉は的中。我々の心配は杞憂に終わり、当日、台風は朝鮮半島方面に逸れ、風も波も想像以上に穏やかで、大島までの航路を繋ぐフェリーも通常通りの運行。

ゲストの皆さまには開催の連絡をし、予定通り神湊より大島行きのフェリーに乗り込みました。自然とともに生きる大島の人々は、時にこのような自然の厳しさの中でも神への祈りを捧げ、何百年、何千年と生きてきたのであろうと、大島に到着する数十分の間にそんな思いを馳せ、早くも宗像三女神の御加護を感じるスタートとなりました。

大島に到着して、まず向かったのは渡船ターミナルからほど近い宗像大社のひとつ、中津宮。宗像大社とは沖ノ島にある沖津宮、大島の中津宮、そして本土にある辺津宮の三宮で宗像大社と呼びます。そして沖津宮では「田心姫神(タゴリヒメ)」、中津宮では「湍津姫神(タギツヒメ)」、辺津宮では「市杵島姫神(イチキシマヒメ)」の宗像三女神を祀っています。その神への信仰のお話を宗像大社の中津宮担当である神職の壹岐貴寿氏にゲストスピーカーとしてお話いただきました。

三女神は、天照大神(アマテラスオオミカミ)より生まれ、「九州から半島、大陸へつながる海の道(海北道中)へ降りて、歴代の天皇をお助けすると共に歴代の天皇から篤いお祭りを受けられよ」と神勅を受け、各地に祀られた、とのことなど宗像に残る歴史や信仰のお話をしていただきました。歴代天皇陛下や皇室の方々が宗像へ訪れることがあるのもこういった背景からと考えられます。


神守る島、大島。神宿る島、沖ノ島。
生きる中から生まれた日本人の信仰。

中津宮を参拝したあとは、大島の人々が遠い沖津宮を拝んでいたことから建てられた、沖津宮遥拝所へ。沖ノ島は島そのものが御神体。一般の立ち入りは禁止され、沖ノ島で見聞きしたことは口外してはならない。

島からは一木一草一石たりとも持ち出してはならない、という厳格な禁忌によって「不言様(おいわずさま)」とも呼ばれ、今まで島は守られてきました。その沖ノ島も宗像大社の神職の方々が漁に赴く漁師の船に同船させてもらい、沖ノ島に10日交代で派遣され、常時滞在して祈りを捧げています。

遥拝所は当初、沖ノ島へ行くことの出来ない人、また女性たちが沖ノ島への信仰や漁師たちの安否を思い、この場所から拝んでいたところから社殿が建てられるに至りました。通常は閉まっている遥拝所ですが、この日は特別に社殿に入らせてもらい、沖ノ島を拝むための窓も開けていただきました。

壹岐氏のお話のみならず、沖・中両宮奉賛会会長であり、元漁師でもある沖西敏明氏にも中津宮よりゲストスピーカーとして同行。歴史・文化のみならず、漁師や島民としての暮らしの話などをしていただきました。漁師たちにとって沖ノ島近郊は彼らにとって漁場で、大島から約50kmの距離。エンジンがない手漕ぎの時代から生きるために沖ノ島を目指し漁を行っていた大島の人々。

「今日は沖ノ島見えとった?(見えてた?)」といった会話が島民間で日常的に行われます。おそらくそれは漁に出られる天候の確認でもあるでしょうし、漁に出た人々の安否を気遣う側面もあったのではないかと思います。彼らにとって沖ノ島は生き残るための命綱そのものであり、そして「漁をさせてもらう」という畏敬の念が神格化されていったことを感じます。

そういった背景から、荒らくれ漁師たちが沖ノ島を海の女神と崇めてきた歴史の深さを沖西さん、壱岐さんのお話から今も感じます。知れば知るほどに、我々日本人の神への信仰を篤く感じずに入られません。


白い灯台と沖ノ島を臨む宿にて、
地元食材のフランス料理を。

参加者の皆さんには宗像大社の歴史、そして大島に暮らす人々の信仰の意味を感じてもらいつつ、本日のメインである一夜限定のダイニング会場へ。場所は大島の北部、白い灯台がぽつんと崖上にそびえ、その先に空と海だけの水平線のパノラマが広がる絶景地。その灯台のそばに建つ建物が今回のメイン会場である「MINAWA」。普段は一日一組限定宿として運営しているこの施設を今回は使用させていただきました。

室内からは灯台、沖ノ島を臨む海を一望。

今回の料理や給仕を担当していただいたのは宗像の海沿いにてフランス料理店を営む「FRANCEYA」。「宗像の海と大地の恵みをふんだんに使ったフランス料理を作る」をコンセプトに、地元のみならず市外から多くのファンを持つお店です。

シェフの舩越清玄氏はソムリエの資格も持ち、東京のレストランで研鑽を重ねた後、父 勝利氏と共に横浜から宗像に移転リニューアルオープン。地元漁師や農家さんなどとの繋がりも深く、伝統的なフランス料理をベースとし、地産地消を活かすアレンジメントをおこなっています。

豊かな食材が豊富な宗像にこだわった想いを持つFRANCEYAだからこそ、今回の企画を依頼。シェフ舩越氏とは数回に渡り、大島へ共に趣き、漁師さん、農家さんとお会いしながら食材を確認していきました。

そのシェフより最初に提供されたアミューズ・グールは、「グリジエール」。グリジエールは通常、シュー生地にハム、チーズを入れたもの。今回は塩気となるハムの代わりに、大島天然ワカメで作りました。国産天然ワカメは実は流通量全体の約1%しかないそうです。

神社などを歩き回って少し疲れた身体に、食前酒に世界屈指のシャンパーニュ・メゾンが造る「シャンパーニュ ローラン・ペリエNV」と併せて玄界灘の荒波で揉まれ育ったワカメの天然とお酒とのペアリングで体全身にミネラルが染み渡り、疲れをリフレッシュしていきます。


宗像大島郷土料理と
フランス郷土料理のを

続いて「がぜみそのリエット」と「猪肉とガトーショコラとリエット」を。リエットは魚(さば)とじゃがいもをほぐしてパンにつけて食べるもので、今回は大島流にシェフがアレンジしてがぜみそを使用。

「がぜみそ」とは大島の郷土料理。塩ウニに味噌を練り込んだもので「ご飯泥棒」と呼ばれるほど食が進む逸品です。そのがぜみそは大島の船団、春日丸のものを使わせていただきました。そして大島で自然栽培の農業を行っている西永さん特製のじゃがいもを使用。それらを混ぜて作った大島の郷土料理とフランスの郷土料理との融合料理!2品目にして豊かな土地、大島を感じるお魚のリエット。

そして、続いてはお肉のリエット。使っているお肉は、なんと猪。宗像は猪被害が多く、大島も例にもれず。その猪を使った「ガトーショコラとリエット」。コーンビーフのような味わいで、通常、豚の脂身が多い部分を塩漬けして使うところを猪で。1週間お肉を塩漬けにして味を染み込ませてから、水分をすべて飛ばすためにカリカリに焼きます。その後、ブイヨンで3時間煮込み、肉をフォークでほぐし、再度煮込んだブイヨンにお肉をかけ、さらに冷やして固めます。

今回の猪の加工肉、いわゆるシャルキュトリーは、素朴だけれども、手間を惜しみなくかけた逸品。煮込み料理を最初に持ってくるということはお店全体の味がわかるということを意味します。そこで、あえてチャレンジしたこの逸品は、天然猪自体の脂身がしっかり乗っていて、豚の背脂を使う必要がなく、100%猪のみの脂で作れたからこそのメニュー。

さらにシェフ曰く、今回はコース料理に入る前のリフレッシュで塩気(ミネラル)を効かせたかったので、パンではなく、甘いガトーショコラと合わせた、とのこと。

ちなみにリエットはフランス料理で「お店の顔」という意味。その店のシェフの腕がわかる料理ということで、アミューズ・グールから舩越氏の力が入り、その想いはゲストの皆さんにも料理の味で伝わり、自然と会場全体に喜びと笑みが溢れます。


コース料理のスタートはやはり魚。
鮮度を重視した技術が冴え渡る一皿。

突き出しとも称されるアミューズ・グールでゲストのみなさんがすでにシェフの熱量を全身に受け止めつつ、実はここからがコース料理の最初の1品目。

コース料理とともにご提供するお酒は、先程のローラン・ペリエに続き、ビール党向けにご用意した「クローネンブルグ」。製造元はフランスとドイツの国境付近に位置するアルザス地方。ビールで有名なドイツ文化が色濃い街だそう。麦はフランス北部で栽培されたものを使用。フランスで一番メジャーなビールブランド。

そしてパリの一流レストランが取り扱うようになり、フランス料理とも相性が良いとされ、好んで飲まれるようになった日本酒もご用意。

こちらは宗像で自然栽培された酒米のみを100%使用した「山の壽 純米酒 山田錦 宗像日本酒プロジェクト」を使用。米の香りを感じ、すいすいと飲めてしまうほど軽い味わいが特徴です。2018年に誕生し、福岡県種類品評会でも2年連続金賞を受賞するなど、これからの成長に期待したい地元酒米を使用したお酒です。

特に日本酒プロジェクトには関心を持っていただきつつ、大島ならではのコース料理の一品目に。

離島で、漁村と言えばやはり魚料理。一品目は「本日の大島のお魚カルパッチョ」。

鮮度をもっとも大事にする魚料理の一番難しい点は、何が穫れるのか、当日何が提供できるのか、という点。これは本当に直前にならないとわからないため、シェフの経験値、肴の相性によるその時の瞬発的な発想力が問われます。メニューに”本日の~”と付けたのも直前まで獲れる魚の固有名詞を挙げられないからでした。そして前日に入手した魚は、春日丸のいさき、友栄丸のやりいか。

いさきは尻尾の方が硬いので湯引き。やりいかは中心の部分が甘いので、そこに包丁を入れて湯引き。もちろんやりいかは生で食べても美味しいのですが、さらに上の美味しさを目指すため湯引きして食感を変化させ、甘みも増す処理を行いました。湯引きの技術はとても繊細で一般の人が行うとボイルになってしまうそうです。その寸分の技術に「この日にしか味わえない料理」へのシェフの想いを感じました。